








古い工場をリノベーションし、韓国最先端のファッション&カルチャーの拠点として生まれ変わった街・ソンスドン。
新旧が交錯する街で、石川はレンガ造りの壁に木の枝が影を落とす夕刻のたった2時間、カメラを手に、道ゆく人を撮り続けた。
本作は、20世紀アメリカのドキュメンタリー写真を代表する写真家のウォーカー・エヴァンスが、労働者を取り続けた「Labor Anonymous」にオマージュを捧げた作品である。
韓国最先端のファッションに身を包んだ若者、戦後を生き抜いてきた老人、軍服に身を包んだ青年たち─。
石川の目を通して記録された、消費者としての現代韓国人の姿に、我々もまた、同じ壁の前を歩いていることに気付かされる。
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Consumer Anonymous
どのようなことでも同じなのかもしれないが、今ここにいることに、大した理由なんてなく、
そこに何かしらの意図や思惑があったとすれば、そのほとんどは、生きようとするどうし
ようもなさを除いては、社会的な何かなのかもしれない。かろうじて、間接的に、生活と繋がっているようでもある、消費者の視線。
細菌のように増殖していくショッピングストリート
立ち並ぶブランドショップ
行き交う人々
身を飾る肩書きと、そのコピーの数々
流行りの飲食店で付けたシミ
それはとめどなく湧き出る欲望に纏わりついた哀愁のようだ
そんな思いの先に現れた景色
歴史を思い起こさせるレンガの壁
傾いた太陽の光によって、重なるように落ちた木影
その自明的であるような意味に救いを求めていたのかもしれない
彷徨う肉体
引き剥がされた知性
それらを繋ぐ精神
消費とは、人のつくり出した意味の消滅であり、物質が続けてきた変換運動であり、エネルギーのインフレーションでもある。
石川竜一
(本書掲載あとがきより)