震災遺構と写真。人々の意識や記憶の間の「扉」となり、大きな時間に対する紀要として差し出される一冊。
2020年の夏、畠山直哉は、故郷である陸前高田市の市役所からの依頼により、旧道の駅高田松原(タピック45)、気仙中学校、下宿定住促進住宅1号棟、陸前高田ユースホステルなど、陸前高田市の4つの遺構をデジタルカメラを用いて撮影した。
年間約40万人が訪れる観光情報発信拠点として大いに賑わっていた旧道の駅。作家の母校でもあった気仙中学校。幾度か友人を泊めたこともあったというユースホステル。子育て世代などの若い人々のためにあったという下宿定住促進住宅─。東日本大震災が起こった10年前のままびっしりと土が詰まっていた4つの遺構の内部は、一方で、市民体育館や市民会館など解体されてしまった他の建物と異なり、たまたま死者が出なかった建物でもあった。
そして、その周囲には、すでに2013年にコンクリートの地盤に人工の芯を立てられ、幹に防腐加工が施され、葉がプラスチック製という姿になった「奇跡の一本松」も存在する。
今後は、市が公開を前提に保存整備を行う予定となっている4つの震災遺構、そしてその前に内部が詳録されたこれらの写真は、それぞれ人々の意識や記憶の間の「扉」となり、大きな時間の中でどのような風景に開かれていくだろうか。
大きな時間に対する、紀要として差し出される一冊。
ー出版社紹介文より