new
見ること、作ることに深く降り立ち、ひとりひとりを照らす言葉。
写真と向き合い、生をまなざし、
遙かな海へ漕ぎ出す。
エッセイや批評を通じて、「見ること」と「作ること」の根源に向き合ってきた竹内万里子。
新たに編まれた『矛盾の海へ』は、2017年から2024年にかけて発表された文章を集成した一冊です。前作『沈黙とイメージ』に続く思索の書であり、ときに自身の写真との邂逅や記憶を手繰り寄せながら、写真のそばで静かに紡いだ言葉が収載されています。
本書に収められたエッセイのいくつかは、大学の卒業制作展の場で学生たちに向けて書かれたものであり、芸術を志す若い人々に寄り添い、創作という営みの奥深さに光を当てています。しかしそのメッセージは、芸術に携わる人々だけに向けられたものではありません。
人間の根源的な無力さを引き受けながらも、なお生きつづけ、作り、問いつづけることの価値を見つめるそのまなざしは、混沌としたこの世界に在る私たちすべてに向けられています。
これまで竹内は、『ルワンダ ジェノサイドから生まれて』『あれから ─ 』などの翻訳・編集を通じて、声なきものを伝える営みに携わり、また『沈黙とイメージ』では写真をめぐるエッセイを通して、見ることや他者の痛みを想像することを問い直してきました。『矛盾の海へ』はその延長線上にありながらも、より個の記憶や身体を介在させ、わからなさについて、そして写真と生をめぐる切実な思索が息づいています。
アウグスト・ザンダー、リチャード・アヴェドン、ジュディ・データー、レオ・ルビンファイン、木村伊兵衛、増山たづ子、ジョナサン・トーゴヴニク、志賀理江子、奥山由之……。ひとりひとりの写真家の作品に目を凝らし、耳を澄ませるエッセイの数々。
この孤独で果敢な営みは、読む者を静かに励まし、共に遙かな海へと漕ぎ出す力を与えてくれるでしょう。
ただ、写真のそばで。
作品を友として矛盾の海を泳ぐとき、人は決して
ひとりではありません。