眼下にはどこまでも広がる白銀の世界。雪山に轟く一発の銃声が静寂を引き裂いた。
その瞬間、私の魂も山の木霊とともに震えて、空に飛び散っていくような気がした。
信州、小谷村。北アルプスの山脈に抱かれたその麓には、小さな集落が点在し、その営みを今も静かに残している。村人は、厳しくも豊穣な山の自然とめぐる季節の流れ の中で、日々暮らしている。真冬には積雪が三メートル近くにもなる豪雪のこの地に、私が初めて訪れてから、四年近くが経った。当初、私はここの伝統的な火祭りや狩猟の取材のために訪れたのだが、山の自然とそこにたくましく根付いて生きる人々との出会いは、都市を頼り生きてきた私の想像をはるかに超える出来となっていった。
その営みは清冽にして根源的な深さを秘めているように感じていた。「山の恵み」と彼らはなんどもいう。山の自然を畏怖、畏敬し、目の前に立ち現れる野生と真摯に向き合うということ。深い山の中にいると、ふと、自分という儚い存在が、大きな懐に包まれているような感覚になるときがある。それは人智を超えた意志を持ち、絶えず呼吸している、ひとつの巨大な生命体のようだ。山は水を生み、あらゆるいのちを育んでいる。その麓で、家族と仲間と共に生きて、働いて、いのちをつないでいく。見上げれば、悠久の頂と天がすぐそばにある。めぐりゆく四季の中で、彼らにしばし添い、本能の感知するままにシャッターを切った。(野村恵子)
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